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今年も勝真さんのお誕生日、お祝いできることに感謝しつつ...
しとしとと降る雨を眺めながら花梨は「あーあ」と呟いた。
今年の桜は早かった。
急にあたたかくなり、パッと咲いてあっという間に満開を迎えた。
「来年もみんなでお花見しようね!」
昨年の今頃よりも少し遅い時期にそんな約束をした。
そして、今年も例年並みだろうと思い、皆に文を送った。
少し遠出したかったが、紫姫も一緒に花見をしたいと言ったので、会場は四条の紫姫の邸とした。
皆はそれぞれ出席とのことで、花梨も何か料理を振る舞おうと考えていた。
しかし、今朝から生憎の雨。
花見にいいね、と紫姫と話をしていた樹の下には薄紅色の絨毯が敷き詰められているかのような桜の花弁が落ちていた。
仮に数日後にまた日程を取ったとしても、もう葉桜になっている。花見というにはもう時機を逸してしまった。
「神子様」
声を掛けられて振り返る。
「今日は、残念でしたね」
何故か申し訳なさそうに紫姫が俯いた。
「そうだね。でも、天気の事は誰にもどうしようもないから」
「泰継殿に占じていただけばよかったかもしれません。わたくしが気づかなかったばかりに...」
そう言って彼女が裾で顔を隠す。
「紫を責めるな!」
遅れてやってきた深苑に叱責されて花梨は肩を竦める。
「まあまあ。別に花梨は紫姫を責めていたわけではないだろう」
執成す声に彼女は驚いて顔を上げた。
「勝真さん?!」
大抵ともに行動をしてい深苑と紫が揃っていなかったのは、深苑が来客に応じていただからだった。
その来客が勝真で。
遅れてやってきた深苑の目には、落ち込んで謝罪をしている妹の姿だったので、思わず花梨を責めてしまったのだ。
「勝真さん、何で?」
立ち上がって花梨が彼の元へと足を向けた。
「どうしたんですか?」
不思議そうに自分を見上げる彼女に苦笑して
「まあ、俺はほかの奴らと違ってあまり忙しくないからな。どうせ、花梨の事だししょぼくれてるんだろうなと思って寄らせてもらったんだ」
と答えた。
予想通りというか、思いのほか彼女はしょぼくれていた。
だから、来てよかったなとも思った。
「では、勝真殿。酒の準備をさせて参りますので、少しお待ちください」
そう言って紫姫が部屋を後にし、深苑がそれに続いて出て行った。
「手折ってきてやろうか?」
ふいに聞かれた。
「はい?」と問い返すと、
「桜。紫姫に断ってそこの庭のを一枝手折ってきてやろうか?今ならまだ花が落ちていない枝もあるだろう」
と勝真が問う。
「いいえ、このままでいいです」
花梨は首を振った。
「そうか?」
「はい。手折ってしまったら、それはこの部屋だけでしか楽しめなくなってしまいます。
桜はみんなに見られる方がきっと嬉しいですよ」
「そうか?」と勝真は首を傾げ、ただ、その考え方には花梨らしさが見えて微笑ましく思う。
「三度目の春、だな」
ポツリと呟く勝真に「そうですね」と花梨が頷いた。
龍神の神子としてこの世界に召喚された彼女は、その使命を全うし、そして、こちらに残る未来を選択した。
元いた自分の世界に戻る事もできた。おそらく、それがあるべき姿なのだろうと皆が思っていたが、彼女の選択は違った。
皆は彼女の残留を喜び、そして同時にどこか不安を覚えていた。
勝真が乱暴に頭を撫でてきた。
「な、何ですか?!」
手櫛で髪を整えながら花梨は抗議の声を上げた。
「――、」
勝真は何かを言おうとして言葉をのむ。
「来年こそ、みんなでお花見しましょうね!」
自分の想いを見透かされたような気がして勝真は息をのみ、そして苦笑する。
「鬼が笑うぞ」
勝真がいい、
「鬼の一族の皆さんも楽しく過ごせるなら、それが一番じゃないですか」
と花梨は笑う。
「...ああ、そうだな」
勝真は頷き、花梨を見下ろした。
不思議そうに首を傾げる彼女に苦笑をして庭に視線を移す。
「ああ、少し雨が上がって来たな。空が明るくなってきたぞ」
軒先から空を見上げると雲の切れ間も見える。
「ごめんください」
「幸鷹さんだ」
花梨はつぶやき、「はーい」と返事をして部屋を出ていく。
「別当殿も、意外と暇なことで...」
彼が此処にやってきた魂胆は同じだろう。
「君も人の事は言えないだろう」
愉快そうな声が聞こえて視線を向けると翡翠の姿があった。
「庭から来るなよ。無礼だろう」
呆れたように言う勝真に
「海賊に礼節を求めないでくれないかな?」
とやはり愉快そうに翡翠が返した。
「まあ!翡翠殿」
酒を用意してきた紫姫が目を丸くして庭にいる男の名を口にする。
「今すぐ体を拭くものをお持ちしますね」
そう言って彼女が去っていく。
「間もなく全員揃ってしまうんじゃないのかな?」
翡翠の言葉のとおりになるだろうという予感を覚えつつも勝真は「どうだろうな」と返した。

